山の料理人・女性猟師が感謝を込めて作るジビエ料理

関西・オンナの美酒佳肴


【オルヴィエート】加古川市・別府 

 

築100年以上になる米蔵を改装したワインビストロ「オルヴィエート」は、若きシェフが作る料理と厳選したワインがとっても美味しい店。でも、この日はオーナーでもある増田翔シェフは黒子に徹し、猟師で料理人の林英里さんがすべての料理を担当する特別なイベント。英里さんのジビエ料理は仲間内でも評判で、猟期が終わるギリギリのタイミングで開催された。

鹿肉とお花のテリーヌ

英里さんは猟師になって25年、その度胸を見込まれてベテラン猟師からスカウトされたのが、この道に進むきっかけだったそう。猟友会の一員として害獣駆除のために山に入り、猟期以外にも大自然を観察し、その魅力を語ってくれる人だ。「野生動物の命をいただくことは尊いことです。山の神様から授かった命に感謝して心を込めて料理します」と、一流シェフや薬膳の料理人から料理を学ぶことも怠らない。

シャンパンで乾杯し、テリーヌが登場した瞬間に歓声が上がった。鹿の筋からとったコラーゲンでエディブルフラワーや野菜、鹿肉ミンチを閉じ込めた華やかな一品だ。さらに、サツマイモと鹿肉のコロッケはあっさりと甘く、猪肉の角煮はグレープフルーツの風味で、どちらも口当たりもよく旨みもしっかり感じられた。

猪肉のモホ

猪肉のモホは、猪のロースをみかんや柚子、ネーブルなどでマリネしてローストしたもの。モホとはキューバスタイルのローストポークで、現地ではタマネギ、ニンニク、オレンジジュース、ライムなどでマリネしているもの。映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』で観た時に、「猪肉に合いそう!」とひらめいたそう。

うりぼうチョップ

「手づかみでその感触と一緒に楽しんでね」と出されたのは、こんがりと揚げた、うりぼうチョップ。その香ばしいことといったら。この他にも手の込んだジビエ料理がいくつも出て、ツキノワグマとクレソンのスープのやさしい味が締めだった。

アルコールも進んで、参加者一同が盛り上がったタイミングで幹事からお知らせが。

この日参加されていた小説家の玉岡かおるさんの文学碑が、高砂市にある「宝瓶山 十輪寺」に建立され、その除幕式が4月20日に執り行われるとのこと。現役で活躍されている小説家の文学碑というのは例がないそうで、カウンターでもテーブル席でも乾杯の声があがった。

玉岡さんは、デビューから35年、数々の小説を発表されている人気作家だ。『帆神 -北前船を馳せた男・工楽松右衛門-』(2021年初版発行)は、第41回 「新田次郎文学賞(新田次郎記念会主催)」、第16回「 船橋聖一文学賞」と2つの賞に輝いた。
『帆神』の主人公は、まさにここ播磨灘の漁師で、のちに船乗りとして名をあげ、時代を先取りする海商となる。大きな夢を持ち、千石船の弱点だった帆の改良に取り組んで画期的な「松右衛門帆」を完成させて、江戸海運に一大革命をもたらした。小説に描かれた豪快な生き方とたくましい精神、次々に起こる展開に引き込まれて、寝ずに読み終えた作品でもある。文学碑に刻まれる言葉は、この『帆神』ゆかりかも…と考えるとさらに楽しみが増す。

玉岡さんのうれしいお知らせ、英里さんの素敵な料理、食事会を企画してくださった幹事の皆さん、そして場所を提供して自身はワインセレクトとサービスに徹しておられた翔シェフ、あたたかい思いに満ちた食事会だった。ちなみに、この食事会に参加できなかった人の要望に応えて、ジビエ料理の会は再度開催された。

 


 

◆ Data
オルヴィエート
電話:079-436-4109
住所:兵庫県加古川市別府町本町1-29
営業時間:17~24時
定休日:月曜

◆ Writing / 松田きこ(ウエストプラン)
http://www.west-plan.com/

 

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため対策した上で取材・撮影しています。
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